熊本で震度7 — 過去の大地震で、株式市場はどう動いたか(1995・2011・2016年の実測記録)

急変の解剖

まず、今回の地震で被災された皆さま、不安な夜を過ごされている皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

気象庁の発表によれば、2026年7月28日16時27分ごろ、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1・深さ約10kmの地震が発生し、宇城市・氷川町で最大震度7を観測しました。津波注意報は同日18時10分に解除されています(出典: 気象庁発表・NHK/ウェザーニュース報道)。被害の全容はまだ分かっていません。

※本記事は教育・解説を目的としたものです。特定の売買を勧めたり、将来の値動きを予測・断定したりするものではありません。以下はすべて過去に実際に起きたことの記録であり、今回も同じことが起きるという意味ではありません。

こうした災害のあとは、不安の中で慌てた売買をして後悔する個人投資家が過去に何度も生まれてきました。だからこそ「過去の大地震のとき、市場に実際は何が起きたのか」を、憶測ではなくデータで知っておくことに意味があると考え、急ぎ整理しました。

① 今回の地震は「取引時間外」に起きた

発生は16時27分——東京証券取引所の取引終了(15時30分)の後です。つまり株式市場は今回の地震にまだ一切反応していません。明日以降に見える値動きが「市場の最初の反応」になります。

実は2016年の熊本地震も同じ構図でした。前震(4月14日・木曜21時26分、震度7)は夜、本震(4月16日・土曜未明、M7.3・震度7)は週末。市場はいつも「翌営業日」に初めて反応してきました。

【7/29追記】地震後・最初の取引日に、実際に起きたこと

翌7月29日(水)、市場は最初の反応を示しました。実測です(前日終値比、Yahoo Financeデータより当サイト算出):

対象 7/29終値 場中の最大下落
日経平均 −1.5% 一時−3.1%(1,900円超安・約2か月ぶり安値)
ルネサス −8.4% 一時−11.5%
東京エレクトロン −10.6% 一時−13.1%
九州FG −3.2% 一時−5.0%
九州電力 +1.0% 一時−1.0%
ソニーG +4.0% ほぼ下げず
トヨタ +7.2% (下げず・急伸)

本文で書いた「過去の記録」と突き合わせると、3つのことが言えます。

下げの中心は、今回も「熊本に拠点を持つ半導体」だった。 報道によれば、東京エレクトロンは熊本県合志市の生産子会社(TEL九州)の操業を停止し、日本製紙八代工場では煙突が倒壊、イオンモール熊本では爆発事故で死者が出ています(出典: Bloomberg・日本経済新聞 2026-07-29)。2016年と同じ「工場・サプライチェーン」の経路で、しかも2016年以降にTSMC進出などで熊本の半導体集積が大きくなっていたことが、半導体株の反応を強めたと報じられています。

ただし、この日の下げを「全部地震のせい」とは言えない。 同じ日に、韓国市場で半導体株が大きく下げ、中東情勢の悪化(イランによる米軍拠点へのミサイル発射報道)で原油が上昇していました(出典: 日本経済新聞 2026-07-29)。2016年4月18日の下落に「ドーハ会合決裂」が重なっていたのと同じ構図——本文で書いた単一帰属の罠が、翌日そのまま再現された形です。

そして「全部が下がる」わけでもなかった。 トヨタは+7.2%と急伸しました。報道では、過熱感のあった半導体株から出遅れていたバリュー株(自動車など)への世界的な資金シフトと円安(1ドル163円台)が理由とされています(出典: 株探・日本経済新聞 2026-07-29)。2016年6月にトヨタが下げた理由が地震ではなかったのと同様、震災翌日の個別株の動きも、地震以外の材料で決まることがあります。

【7/30追記】2営業日目 — 「再開のめど」が株価を分けた

2営業日目の7月30日、日経平均は+0.7%と反発しました。しかし前日に下げた銘柄の戻り方は、はっきりと分かれました(前日終値比、Yahoo Financeデータより当サイト算出):

対象 7/29(初日) 7/30(2日目) 2日間の累計
東京エレクトロン −10.6% +4.5% −6.6%
ルネサス −8.4% +0.8% −7.7%
九州FG −3.2% −2.0%(続落) −5.1%
九州電力 +1.0% −1.3% −0.3%
ソニーG +4.0% 0.0% +4.0%
トヨタ +7.2% −3.0% +3.9%
日経平均 −1.5% +0.7% −0.8%

この差を分けたのは、「再開のめど」が示されたかどうかでした。

  • 東京エレクトロン(+4.5%反発): 7/29に生産子会社・東京エレクトロン九州(合志市・大津町)が8月3日から操業を再開すると報じられました(出典: 熊本日日新聞 2026-07-29)。再開日という具体的な情報が出た銘柄が、最初に反発しています
  • ルネサス(+0.8%にとどまる): ソニー・ルネサス・三菱電機の熊本の半導体工場は「再開が見通せない」と報じられており(出典: 日経クロステック 2026-07-30)、ルネサス株は2日間で−7.7%とほぼ戻っていません
  • 九州FG(−2.0%と続落): 被害の全体像はなお更新が続いており、イオンモール熊本で6人死亡、日本製紙八代工場で8人死亡などが7/30までに明らかになっています(出典: NHK 2026-07-30)。地元経済への影響がまだ見積もれないことが、地元金融株の続落に表れているとみられます
  • なおトヨタの−3.0%は前日+7.2%の急伸の反動の範囲で、地震と結びつける材料は見当たりません(ここでも単一帰属は禁物です)

本文③で「差を分けたのは不確実性が続くかどうか」と書きましたが、その構図が2日目にして早くも現れています。市場が値段をつけているのは地震そのものではなく、「不確実性が解消されたかどうか」——再開日を発表できた会社から順に、株価が戻り始めています。

【7/31追記】3営業日目 — 日経+4.0%の急騰日は、「日経との差」で見る

3営業日目の7月31日、日経平均は+4.0%(64,362円)と急騰しました。ただしこの上げは地震とは関係がありません。前夜の米国市場でマイクロソフト株が急騰し(時価総額の増加が1日で約72兆円と史上最大と報道)、AI関連・米ハイテクの好決算を手掛かりに半導体株に買いが波及した日でした(出典: 日本経済新聞 2026-07-30、株探・kabushiki.jp 2026-07-31)。日銀がこの日、政策金利1.0%の据え置きを決めたことも報じられています(出典: 日本経済新聞 2026-07-31)。

市場全体が+4%も動く日は、個別株の「地震の影響」は前日比では読めません。日経との差で見ます(前日終値比、Yahoo Financeデータより当サイト算出):

対象 7/31(3日目) 日経との差 地震前(7/28終値)比の累計
ルネサス +7.7% +3.7pt −0.6%
東京エレクトロン +6.2% +2.2pt −0.8%
九州FG +0.2% −3.8pt −4.9%
九州電力 −2.0% −6.0pt −2.3%
ソニーG −0.6% −4.6pt +3.4%
トヨタ −1.9% −5.9pt +2.0%
日経平均 +4.0% +3.2%

ここから読めることが3つあります。

「再開のめど」仮説が、3日目も追認された。 ルネサスは前日夕方、錦工場(熊本県錦町)の生産再開と、主力の川尻工場(熊本市)の8月5日からの一部再開が報じられました(出典: 熊本日日新聞・日本経済新聞 2026-07-30)。2日目まで「再開が見通せない」と置き去りだった株が、再開日が示された翌日に市場を3.7pt上回る反発をしています。東京エレクトロン(8/3再開予定・既報)も市場超えの+6.2%でした。ただしこの日は半導体セクター全体にAI相場の追い風が吹いており、上げ幅のどこまでが「地震の戻し」かは切り分けられません——ここでも単一帰属は禁物です。

「株価が戻った」と「影響が消えた」は別物。 半導体2銘柄は地震前の水準まであと1%以内に戻りました。しかし日経平均自体が地震前比+3.2%まで上がっているので、日経に対する相対では、東京エレクトロンもルネサスもまだ4pt前後の遅れが残っています。水準の回復はAI相場というゲタの分で、地震の織り込みが消えたわけではありません。

取り残された側に、続く不確実性が表れている。 +4%の日に九州FGは+0.2%、九州電力は−2.0%——相対では大幅な弱さが続いています。被害の全容はなお更新中で、日本製紙八代工場で8人、イオンモール熊本で7人の死亡が確認されたと報じられています(出典: 朝日新聞 2026-07-31詳報)。TSMCは「復旧に一定の時間」(出典: 西日本新聞 2026-07-30)、ソニーは被害確認に時間を要すると報じられ(出典: 日本経済新聞 2026-07-30)、自動車の部品供給網でも生産停止が続いています(出典: ロイター 2026-07-31)。なおトヨタの−1.9%には、円相場が一時157円台へ急伸したこと(為替介入観測の報道あり、出典: 日本経済新聞 2026-07-30)も重なっており、これも地震だけには帰属できません。

【8/4追記】4〜5営業日目 — 全工場に「再開」が揃い、株価は地震以外の材料で動き始めた

地震発生から1週間。復旧側では節目が続きました。東京エレクトロン九州(合志市・大津町)は発表どおり8月3日から操業を再開(出典: 熊本日日新聞 2026-07-29発表)。ルネサスは錦工場(熊本県錦町)の生産能力が全回復し、主力の川尻工場(熊本市)も予定より1日早い8月4日に操業を再開——生産は8月5日から順次で、約3週間でフル生産に戻す計画と発表されました(出典: レスポンス 2026-08-03、熊本日日新聞 2026-08-04)。

つまり、地震直後に「再開が見通せない」と報じられた熊本の主要半導体拠点は、発生から5営業日で再開が出揃いました。本文③で、2016年の市場の早い落ち着きの背景を「数週間単位で再開の見通しが立ったこと」と書きましたが、今回はそれより速いテンポです。

この2日間の株価はこうでした(前日終値比、Yahoo Financeデータより当サイト算出):

対象 8/3(4日目) 8/4(5日目) 地震前(7/28終値)比の累計 日経との差
ルネサス +13.4% −0.6% +12.2% +9.6pt
東京エレクトロン −0.9% +3.1% +1.4% −1.2pt
九州FG 0.0% −0.3% −5.2% −7.8pt
九州電力 +3.3% −0.4% +0.5% −2.0pt
ソニーG −5.2% −1.4% −3.4% −5.9pt
トヨタ −3.4% −1.5% −3.0% −5.5pt
日経平均 −0.9% +0.3% +2.6%

ここで注意してほしいのは、この表はもう「地震の表」としては読めないということです。

ルネサスの+13.4%は、地震の回復ではなく決算でした。 8/3の急伸は、1〜6月期の黒字転換と7〜9月期の増益見通しを評価した買いと報じられています(出典: 株探・日本経済新聞 2026-08-03)。会社側は地震の業績への影響は軽微との見方も示したと報じられました(出典: 日刊自動車新聞)。ソニーGの−5.2%も決算発表後の反落と報じられており、この2日間の値動きに地震関連の新しい材料は見当たりません。決算シーズンが本格化し、地震は株価を動かす主役ではなくなりました

イベントの株価への影響は、こうして「終わり」ます。 影響が消えたと証明される日が来るのではなく、決算のようなより大きな材料に埋もれて、値動きから地震の分だけを取り出せなくなる——本文で繰り返した単一帰属の罠の、いわば出口側です。この記事の日次追跡も、ここで一区切りにします。

ただし、地元銘柄には影響が残ったままです。 九州FGは累計−5.2%・日経比−7.8ptと、追跡した中で最も戻っていません。工場は再開日を発表できますが、地域経済の被害はまだ集計の途中です。初日の追記で立てた「不確実性が解消された順に戻る」という読み筋は、1週間を通してそのとおりに推移しました。

以下は7月28日夜の公開時の本文です(当時の情報にもとづく記述をそのまま残しています)。

② 2016年熊本地震のとき、市場で実際に起きたこと

当時の日経平均を日次で追うと、こうでした(4月14日終値=基準、Yahoo Financeデータより当サイト算出):

日付 日次 累積 何があったか
4/15(金) −0.4% −0.4% 前震の翌日。ほぼ無風
4/18(月) −3.4% −3.8% 本震を挟んだ週明け。工場停止報道が相次ぐ
4/19(火) +3.7% −0.2% 一転して急反発
4/21(木) +2.7% +2.7% 5営業日で震災前の水準を回復

注目してほしい点が3つあります。

1. 初日はほぼ動かなかった。 震度7の翌朝でも、被害の全容が分からないうちは市場は動けません。「初日に動かない=影響がない」ではなく、単に情報が出揃っていないだけでした。下落が来たのは、工場停止など具体的な情報が出た週明けです。

2. 株価の主経路は「工場・サプライチェーン」だった。 個別株で下げが大きかったのは、熊本に生産拠点があると報じられた銘柄です(4月14日終値からの最大下落局面、当サイト算出):

銘柄 4/18時点の累積 当時の報道
ルネサス −14.2% 川尻工場(熊本市)停止。車載マイコンの主力拠点
ソニー −9.8% 熊本テック停止。スマホ向け画像センサーの主力工場
九州電力 −8.1% 地元電力。設備点検・供給への懸念
トヨタ −5.8% アイシン系部品工場の被災で全国の完成車ラインが順次停止
九州FG −4.7% 地元金融(肥後銀行など)。ただし翌日には回復

2016年熊本地震: 工場停止が報じられた銘柄の株価

3. 下落を「地震のせい」と単純に言えなかった。 実は4/18の−3.4%の日は、産油国の増産凍結会議(ドーハ)が決裂して石油関連株が売られ、円が1ドル107円台まで急伸した日でもありました(出典: 東洋経済 2016-04-18)。市場の下落は複数の材料が重なって起きるもので、1つの理由に全部を帰属させると読み間違えます。上のグラフの後半(6月)でトヨタが大きく下げているのも地震ではなく、円高とブレグジット(6/23英国民投票)です。「地震のチャート」を長く引くと、別の物語が混ざってくる——これも当サイトが繰り返し書いているデータの罠の一種です。

なお、ほとんどの銘柄が数週間以内に震災前の水準へ戻った中で、九州電力だけは回復に約8か月(2016年12月)かかりました。影響が「一度きり」か「続く」かを市場は分けて扱った、ということです。

③ 3つの震災の比較 — 差を分けたのは「不確実性が続くかどうか」

日経平均は大地震のあとどう動いたか

震災 発生 初日の日経平均 最大下落(累積) 震災前の水準回復まで
阪神・淡路 1995 1/17(火)5:46 −0.5% −8.0%(6日後の1/23に−5.6%) 225営業日(約11か月)
東日本 2011 3/11(金)14:46 −1.7% −17.5%(3/15に−10.6%) 年内回復せず
熊本 2016 4/14(木)夜・4/16(土)未明 −0.4% −3.8% 5営業日

(Yahoo Financeデータより当サイト算出。「初日」=発生後最初の取引日)

3つに共通するのは、初日は意外なほど動かないことです。阪神・淡路ですら当日は−0.5%で、−5.6%の急落が来たのは6日後でした。市場が本当に反応するのは、被害の全容——特に経済の供給網への影響——が数字で見え始めてからです。

一方で、回復までの時間は5営業日から11か月以上まで桁違いに差があります。差を分けたのは震度そのものではなく、「先の見えないリスクが残り続けたか」でした。東日本大震災では原発事故という収束の見えない問題が、阪神・淡路では都市機能と金融システムへの打撃が長く残りました。熊本2016では、主な影響が「工場の停止」で、数週間単位で再開の見通しが立ったことが、市場の早い落ち着きにつながったと当時整理されています。

今回がこの3つのどれに近いのかは、現時点では誰にも分かりません。被害の全容も、企業設備への影響も、まだこれからです。

④ こういう時の「読み方」——予測ではなく、心得として

  1. 慌てた売買がいちばん危ない日: 2016年は最大下落(−3.4%)の翌日が+3.7%の急反発でした。パニックの日の判断は、どちらの方向でも高くつきやすい——これは過去の記録が示す事実です
  2. 初日の静けさを誤読しない: 「動かない=影響なし」でも「動いた=これで終わり」でもありません。市場は情報が出た分しか織り込めません
  3. 見るべきは報道の中の「供給網」: 過去の記録では、株価が最も強く反応したのは工場・部品・電力といった具体的な事業への影響でした。感情的な見出しより、企業の被害公表を
  4. 下落の理由を1つに決めつけない: 大きく動く日は複数の材料が重なりがちです。「全部地震のせい」という説明は、2016年の実例では正確ではありませんでした

災害のさなかに市場の話をすることには迷いもありますが、こういう時こそ冷静な記録が誰かの役に立つと考えて公開します。改めて、被災地の一日も早い安全と復旧を心よりお祈りします。


シリーズ「急変の解剖」 — 市場が急に動いた日を実測データで解剖しています:
為替介入の夜、株式市場はどう動いたか(2022・2024・2026年の実測)
噴火警戒レベルが上がった日、株式市場はどう動いたか(御嶽山・箱根山・阿蘇山・桜島の実測)
TOBが発表された株は、なぜ1つの値段に「釘付け」になるのか(フューチャーMBO当日の実測)
消費税が変わるとき、株価はどう動いてきたか(過去4回の実測と、初めての減税)

出典・手法: 今回の地震の概要は気象庁発表およびNHK・ウェザーニュース・日本経済新聞の報道(2026-07-28時点の速報であり、今後更新される可能性があります)。過去の株価・指数はYahoo Financeの調整後終値から当サイトが算出(2026-07-28作成)。2016年当時の状況は日本経済新聞・東洋経済オンライン・各社IR発表の当時の報道にもとづきます。統計用語は用語辞典へ。

※本記事は過去の市場の記録の整理(教育目的)であり、特定銘柄の売買推奨・将来の値動きの予測ではありません。掲載銘柄は当時の報道で言及されたものを記録として挙げているだけで、売買対象として示すものではありません。

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