データで相場を読むときの4つの落とし穴 — 相関と因果・生存者バイアス・偶然・そして壊れたデータ

株を学ぶ

株の情報を数字で判断しようとすると、たいてい次の4つのどれかに落ちます。

  1. 相関を因果と読む — 「一緒に動いた」を「原因だ」と受け取る
  2. 生存者バイアス — 生き残ったものだけを見て全体を語る
  3. 偶然を実力と読む — 10連勝した人を達人だと思う
  4. データそのものが壊れている — そもそも数字が間違っている

この記事は、この4つを順番に見ていきます。4つ目については、当サイトの分析で実際に起きた失敗——分析データから金曜日だけが104日ぶん消えていた——を、結論が3つ覆った顛末ごと載せます。教科書より実感のある教材だと思うからです。

※本記事は教育・解説を目的としたものです。特定の銘柄・商品の売買を推奨するものではなく、将来の値動きを予測するものでもありません。

① 相関を因果と読む

「アイスクリームの売上と水難事故の件数は連動する」——データ分析の入門で必ず出てくる例です。アイスが事故を起こすのではなく、夏という共通の原因が両方を動かしています。

相関は「Aが上がった日はBも上がりやすい」という同時性のパターンを測ったものにすぎません。そこには3つの可能性が同居しています。

  • AがBを動かしている(因果)
  • BがAを動かしている(逆向きの因果)
  • 共通の何かが両方を動かしている(交絡)

株式市場では3番目が圧倒的に多い、というのが実務感覚です。

実例で考えてみます。 トヨタとホンダの日々の値動きはよく連動します。ではトヨタの株価がホンダの株価を動かしているのでしょうか。もちろん違います。日経平均・円相場・自動車業種への評価という共通の原因が、両方を同時に動かしているだけです。

だから銘柄カルテでは、相関をそのまま使いません。共通要因(市場・為替・業種)をまず取り除き、残った部分をその会社の「固有」として観察します。 共通の波をどけて初めて、その銘柄だけの動きが見えるからです。

逆向きの因果の実例もあります。ファーストリテイリングの市場βは+0.86と高いのですが、同社は日経平均への寄与度が最大級の銘柄です。「日経に連動して動く」というより「この会社が動くと日経が動く」面が混ざっている。回帰の数字は、因果の向きを教えてくれません。

投資情報でよく見かける、相関を因果っぽく語る表現を挙げておきます。

  • 「日経平均が上がったから○○株も上昇」 — 本当にそうか、その銘柄固有の材料か
  • 「○○指標が点灯すると株価は上がる」 — たまたま同じ局面で起きただけかもしれない
  • 「社長が代わった年から株価は3倍」 — 同期間の業界の追い風や相場全体の上昇と切り分けたか

厳密な因果の証明は市場データでは困難ですが、近づく工夫はあります。交絡しそうな要因を先に取り除く(当サイトの分解はこの発想です)、時間の前後を確かめる、そしてメカニズムを一文で説明できるか自問する。「なぜAがBを動かすのか」が言えないなら疑ってかかるべきです。

② 生存者バイアス — 帰ってこなかった爆撃機

第二次大戦中、帰還した爆撃機の被弾箇所を調べて装甲を厚くする計画に対し、統計学者ウォルドはこう指摘したと伝えられます。「穴の開いていない場所を守れ。そこを撃たれた機体は帰ってこなかったのだから」

見えているデータが「生き残ったものだけ」に偏っている。これが生存者バイアスです。投資の世界はこれだらけです。

  • 成功した投資家の本 — 同じ手法で退場した多数の人は本を書きません。棚に並ぶのは定義上ほぼ生存者だけです
  • 「10年で10倍になった株」の特集 — その裏に、消えていった銘柄・低迷し続けた銘柄が大量にあります
  • 好成績の投資信託 — 成績の悪いファンドは償還・統合されて消えるため、「現存ファンドの平均成績」は実態より良く見えます

見落とされがちですが、株価指数も生存者の集まりです。日経平均もS&P500も定期的に構成銘柄を入れ替えており、業績が悪化した企業は除外され、勢いのある企業が採用されます。指数の長期チャートには「選手を入れ替え続けたチーム」の成績という側面があるわけで、個別株を1銘柄買って持ち続けることとは前提が違います。

当サイトの分析も例外ではありません。 銘柄カルテは大型の主要銘柄を対象にしていますが、これは一種の生存者スクリーンです。今日「主要銘柄」でいられた会社しか観察していません。「大型株のR²は6〜7割」という当サイトの実測値も、「生き残って大型であり続けた銘柄では」という限定付きで読むのが正確です。

過去データで投資ルールを検証(バックテスト)するときはさらに深刻で、現在の上場銘柄リストで過去を検証すると、上場廃止になった銘柄が最初から存在しないことになり、成績が実態より良く出ます。

自衛のチェックリストはこうです。

  • 見えていないデータは何かを最初に問う。成功例の裏の失敗例の数を想像する
  • 分母を確認する。 「この手法で勝った人がいる」ではなく「試した人のうち何%が勝ったか」
  • 指数と個別株を混同しない。 指数の長期上昇は銘柄入替の効果込み
  • 過去検証の成績は「当時その銘柄を選べたか」と自問して割り引く

③ 偶然を実力と読む

1,024人が同時にコイン投げを始めると、確率的に約1人は10回連続で表を出します。その1人が「私はコイン投げの達人です」と名乗ったら信じないはずですが、株式市場では同じ構図がもっと分かりにくい形で毎日起きています。

SNSや動画には無数の相場予想があります。強気も弱気も、あらゆる時期・銘柄について誰かが何かを言っている。すると事後的には必ず「当て続けた誰か」が存在します。その人が実力者なのか1,024人の中の1人なのかは、当たった実績だけからは区別できません。見るべきは当たった回数ではなく、全予想を並べたときの成績と、なぜ当たるのかの説明が検証に耐えるかです。

これは分析する側にとっても他人事ではありません。 データ分析には「たくさん試せば、何かは偶然うまくいく」という罠があります(多重検定の問題)。100個の投資ルールを過去データで試せば、実力ゼロでも数個は「勝率9割」に見えるものが出てきます。

当サイトでも、値動きを説明する要因の候補(金利・原油・海外指数など)を多数試しています。実際、銀行株に米10年金利を足した検証半導体株に前夜のSOX指数を足した検証も、大半は「追加の説明力なし」で不採用になりました。だからこそ、モデルが見ていない直近90日だけで最終判定する(ホールドアウト検証)、試した回数ごと記録に残すという規律を置いています。「見つかった」ではなく「見ていないデータでも生き残った」ものだけを採用する。偶然への防波堤です。

もう一つの「たまたま」が平均への回帰です。極端に良い成績は実力と幸運の合計であることが多く、幸運の分は続きません。「昨年1位のファンドが今年は平凡」「絶好調の決算の翌年に減速」はスキャンダルではなく、確率的にごく自然な現象です。逆に極端な不振の後に持ち直すのも同じ理屈で、「改善策が効いた」と早合点する前に一呼吸置く価値があります。

実測でもこれは確認できていて、去年いちばん上がった株が翌年どうなったかを10年ぶん数えたところ、前年上位5銘柄の翌年の平均順位は20銘柄中10.72位。まぐれ当たり(10.50位)と区別がつきませんでした。

④ データそのものが壊れている — 金曜日が104日消えていた話

ここまでの3つは「読み方」の話でした。4つ目は、もっと手前の話です。

当サイトでトヨタの株価変化を「市場・為替・業種・固有」に分解していたとき、検算で恒等式が4.7ポイント合わないことに気づきました。分解の各項を足せば実際の株価変化に一致するはずなのに、合わない。

調べると、結合後のデータから営業日が104日も消えていました。消えた日を曜日別に数えて、鳥肌が立ちました。全部、金曜日だったのです。

原因はタイムゾーンでした。データ源のドル円の日足は、バーの開始時刻(前日21〜22時UTC)でラベルされていました。UTCの日付で処理すると東京の暦と1日ずれ、金曜のバーが木曜として記録され、データ上「金曜が存在せず、日曜が存在する」状態になっていたのです。

つまりそれまでの分析はすべて、株価と「前日の為替の動き」を突き合わせていたことになります。

為替のラベルを東京の暦に直して相関を取り直すと、こうなりました。

株と為替の同日相関
修正前 +0.08(前日・翌日にも相関が漏れる)
修正後 +0.24(漏れが消え、きれいに同日に揃う)

そして全分析をやり直した結果は、正直に言って痛いものでした。

  • 「円安局面では為替感応度が3倍強くなる」→ 撤回。 局面別の感応度差は日付ずれの産物で、修正後は統計的に有意ではなくなりました
  • 「適応型の近似モデルは最悪」→ 実は最良。 モデル比較の順位が逆転しました
  • 為替の重要性を半分に過小評価していた(感応度 0.37 → 0.71)

一方で、主要な結論(業種因子が説明力の最大のカギであること、累積の大半は名前のつかない再評価であること)は修正後も変わりませんでした。結論が生き残るかどうかを確かめること自体に価値があります。

この経験からの「転ばぬ先の杖」は4つです。

  1. 結合後の件数と曜日分布を見る。 「金曜がない」ような偏りは、見ようとすれば一目で分かります
  2. 恒等式で検算する。 分解の合計が元の値に一致するか。合わない4.7ポイントを「誤差」と流さない
  3. タイムゾーンを疑う。 日をまたぐ市場(為替・海外指数)のデータは、どの暦でラベルされているかを必ず確認する
  4. 結論が覆ったら、覆ったと言う。 過去の分析は修正の経緯ごと残すほうが、読者にも自分にも誠実です

⑤ 道具の側 — 回帰分析は何をしているのか

ここまで何度も出てきた「分解」の中身に触れておきます。発想はシンプルです。

今日の値動き = 市場の影響 + 為替の影響 + 業種の影響 + その会社固有の分

回帰分析がやるのは、過去数百日のデータから「この銘柄は市場が1%動くと平均何%動くのか」という係数(β)を要因ごとに見つけることです。為替β=+0.7なら「円が1%安くなる日には、他の条件が同じなら株価が平均0.7%上がってきた」という過去の実測であって、誰かの意見ではありません。

ただし注意が2つあります。βは平均の話で、毎日きっちり0.7%動くわけではありません。そしてβは変わります。事業構造や相場環境が変われば感応度も変わるので、測り直す前提の数字です。

もう一つの数字がR²(説明力)で、「市場・為替・業種で日々の変動の何%を説明できたか」という成績表です。当サイトの実測では大型株のR²はおおむね6〜7割。値動きの大半は共通の波で、残り3〜4割がその会社固有でした。

要因を増やすと、見かけのR²は機械的に上がります。 でもそれは過去へのこじつけ(過学習)かもしれない。だから③で書いたとおり、モデルを作る期間と検証する期間を分けます。「過去に当てはまる」と「使える」は別物という規律です。

⑥ それでも回帰では防げないこと

  • 極端な急変日(暴落・急騰)では、平常時のβが効かないことがあります
  • 要因どうしが似た動きをすると、係数の切り分けが不安定になります
  • 入力データが間違っていれば、結果も全部間違います。 ④はまさにこれでした
  • そして回帰は相関の記述であって、因果の証明ではありません。 ①に戻ります

⑦ 記録から言えること

  • 相関の多くは共通の原因の産物。 「なぜ動くのか」を考えるなら、まず共通の波を取り除いてから
  • 見えているデータは生き残ったものだけ。 指数の長期上昇にも銘柄入替の効果が含まれる
  • 試行回数が多ければ、実力ゼロでも「必勝法」は見つかる。 見ていないデータで生き残ったかを問う
  • 極端な成績の直後は、平均への回帰を想定する
  • 分析の高度さより先に、データが正しいか。 恒等式の検算と曜日分布の確認は、地味だが最も効く
  • 結論が覆ったら覆ったと書く。 それができない記録は、そもそも検証されていない

出典・手法: 株価・為替データは Yahoo Finance。分解は当サイト「銘柄カルテ」共通の回帰による因子分解です。④の顛末は当サイトの分析パイプラインで実際に発生した不具合と、その修正記録にもとづきます。

※本記事は教育・解説を目的とした内容であり、特定銘柄の売買推奨・将来予測ではありません。

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