「月曜は下げる」「続落のあとは反発する」は本当か — 日経平均8,990日で数えてみた

相場解説

相場には昔から言い伝えられている「クセ」があります。月曜日は下げやすい(週末に悪材料が溜まるから)、何日か続落したあとは反発しやすい(売られすぎの反動が出るから)。どちらも理屈は分かる話です。

では、実際に数えるとどうなのか。1990年1月から2026年8月24日までの日経平均8,990営業日を、曜日別と「直前に何日続落していたか」別に集計しました。

先に結論を書きます。差らしきものは見えます。ただし、そのほとんどは誤差と区別がつきません。

※本記事は教育・解説を目的としたものです。特定の銘柄・売買手法を推奨するものではなく、将来の値動きを予測するものでもありません。

① 差を見るときに必要なもう1つの数字

平均リターンを並べるだけでは判断できません。日経平均の1日の値動きは、標準偏差で1.490%もあるからです。この揺れの中から「平均で0.05%の差」を取り出そうとしているわけで、その差が本物かどうかはサンプル数と揺れの大きさに左右されます。

そこで使うのが標準誤差(SE)です。SEは「サンプルから計算した平均が、どのくらいブレうるか」を表します。差をSEで割った値(差÷SE)が、判断の目安になります。

差÷SE ざっくりした読み方
1未満 誤差の範囲。何も言えない
1〜2 差はありそうに見えるが、偶然でも普通に起きる
2以上 偶然で起きる確率はおよそ5%未満。注目に値する
3以上 偶然とは考えにくい

この物差しを持って、実測値を見ていきます。

② 曜日効果 — 月曜はたしかにマイナス、ただし

相場の「クセ」は統計的に見えるか

全営業日の平均リターンは+0.0170%でした。これを基準に曜日別を並べます。

曜日 日数 平均リターン 上昇した割合 差÷SE
1,683 −0.047% 50.6% −1.60
1,823 +0.063% 51.5% +1.36
1,827 +0.032% 50.7% +0.44
1,827 +0.055% 52.5% +1.11
1,830 −0.024% 50.4% −1.21

言い伝えどおり、月曜の平均はマイナスです。 全日平均を0.064ポイント下回り、5曜日の中で最も低くなりました。金曜もわずかにマイナスです。

ただし差÷SEは−1.60。上の表の物差しでは「差はありそうに見えるが、偶然でも普通に起きる」範囲です。しかも私たちは5つの曜日を同時に見ています。5つ並べれば、そのうち1つがこの程度に振れることは、中身が完全な偶然でも珍しくありません。

そしてもう1つ、実務的に重要な点があります。月曜と火曜の平均の差は0.11ポイントです。これは売買手数料とスプレッドで簡単に消える大きさで、仮に差が本物でも、そこから何かを取り出すのは容易ではありません。

③ 続落のあと — 4日続落の翌日だけ、少し目立つ

次に「N日続落したあとの翌日」を集計します。直前に何日連続で下げていたかで分類し、その翌日のリターンを見ます。

直前の続落 日数 翌日の平均 上昇した割合 差÷SE
0日(前日が上昇) 4,601 +0.002% 49.7% −0.72
1日 2,314 +0.015% 52.3% −0.06
2日 1,102 +0.001% 51.9% −0.31
3日 530 +0.073% 53.0% +0.75
4日 249 +0.202% 57.4% +1.57
5日以上 194 +0.084% 54.6% +0.43

続落が長いほど翌日の勝率が上がる、という傾向は確かに見えます。前日が上昇していた日の翌日は勝率49.7%なのに対し、4日続落したあとの翌日は57.4%。平均リターンも+0.202%と、全日平均の10倍以上です。

ここで立ち止まる必要があります。

  • サンプルは249日しかありません。 36年間でこれだけです
  • 差÷SEは+1.57。やはり「偶然でも起きる」範囲を出ていません
  • 5日以上まで進むと、効果はむしろ弱まります(+0.084%、差÷SE +0.43)。「続落が長いほど強く反発する」という単調な関係にはなっていません
  • ここでも6つの区分を同時に見ています。いちばん目立つ1つを取り出せば大きく見えるのは当然です

もし本当に「4日続落の翌日だけが特別」なら、5日以上でも同じ傾向が続くはずです。そうなっていないことは、この+0.202%が偶然の産物である可能性を強く示唆します。

④ アノマリーはなぜ消えるのか

仮に「4日続落したら翌日は上がりやすい」が本物だったとしましょう。何が起きるでしょうか。

その情報を知った参加者が、4日続落した日の終値に向けて買います。 すると値段は反発を待たずに上がってしまい、翌日に取れるはずだった上昇は前倒しで消えます。儲かる法則は、知られた瞬間に自分で自分を壊す——これが、市場のアノマリーが長続きしにくい根本的な理由です。

過去データに残っている「クセ」の多くは、①最初から偶然だった、②かつては存在したが知られて消えた、③コストを引くと取り出せない、のどれかです。この記事の2つは、少なくとも①を否定できていません

同じ構図は他のシグナルでも確認できます。当サイトではチャートの読み方の記事で、ゴールデンクロス71回のあとの日経平均を集計しましたが、こちらも「ふつうの日」とほとんど変わりませんでした。

⑤ この集計の限界

  1. 日経平均という1つの指数の話です。個別銘柄や他国の指数では違う結果になりえます
  2. 1990年以降という長い期間をひとまとめにしています。バブル崩壊後の低迷期と近年では相場の性格が違い、期間を区切れば数字は変わります
  3. 手数料・スプレッド・税金を一切引いていません。実際にはこの水準の差は簡単に消えます
  4. 多重比較の問題を厳密に補正していません。5曜日・6区分を同時に見ているため、本来は「一番目立つ1つ」を評価する際にさらに厳しい基準が要ります
  5. 祝日や取引時間の変更を考慮していません。日本の連休の位置は年によって変わり、「月曜」の中身は一定ではありません

⑥ 記録から言えること

  1. 月曜の平均リターンはたしかにマイナス(−0.047%)。ただし差÷SEは−1.60で、偶然でも起きる範囲でした
  2. 火曜がいちばん高く(+0.063%)、月曜との差は0.11ポイント。手数料で消える大きさです
  3. 4日続落の翌日は勝率57.4%・平均+0.202%と目立ちますが、サンプルは249日、差÷SEは+1.57です
  4. 5日以上続落すると効果は弱まります。単調な関係になっていないことが、偶然を疑う理由になります
  5. 平均の差だけを見て結論を作らないこと。1日の標準偏差1.49%に対して、差は0.05〜0.2%の世界です

出典・手法: 日経平均株価(^N225)の日次終値はYahoo Financeより取得し、当サイトが集計(2026-08-24実行、対象は1990-01-05〜2026-08-24の8,990営業日)。日次リターンは前営業日終値比。標準誤差は各グループの標本標準偏差÷√日数、「差÷SE」は(グループ平均−全日平均)÷標準誤差です。続落日数は「その日の直前まで何営業日連続で下落していたか」で分類しています。集計スクリプトはリポジトリの scripts/market_anomalies.py として公開しています。

※本記事は過去データの集計(教育目的)であり、特定の売買手法の推奨や将来の値動きの予測ではありません。過去の傾向が今後も続くことを示すものではありません。


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