熊本地震と株式市場の記事に続く、「急変の解剖」シリーズの3本目です。日本には常時観測対象の活火山が50あり、噴火警戒レベルの引き上げは数年おきに起きています。そのとき株式市場に実際は何が起きたのかを、過去の価格データで整理しておきます。
※本記事は教育・解説を目的としたものです。特定の売買を勧めたり、噴火や株価の先行きを予測・断定したりするものではありません。以下はすべて過去に実際に起きたことの記録であり、今後も同じことが起きるという意味ではありません。
① 4つの噴火イベントと、翌営業日の市場
対象は、性格の異なる4つの事例です(噴火警戒レベルと発生時刻は気象庁発表より):
- 御嶽山(2014/9/27・土曜11:52) — 戦後最悪の58人が犠牲になった水蒸気噴火
- 箱根山(2015/5/6・祝日にレベル2、6/30にごく小規模噴火とレベル3) — 観光地・大涌谷の規制
- 阿蘇山(2016/10/8・土曜1:46に爆発的噴火、レベル3) — 熊本地震の約半年後
- 桜島(2022/7/24・日曜20:05頃、初のレベル5=避難) — 警戒レベル制度で最高位
翌営業日(箱根6/30のみ当日)の実測です(前日終値比、Yahoo Financeデータより当サイト算出):
| イベント | 日経平均 | 藤田観光 | 小田急 |
|---|---|---|---|
| 御嶽山(反応日 2014/9/29) | +0.5% | +0.5% | +0.1% |
| 箱根レベル2(2015/5/7) | −1.2% | −8.5% | −3.0% |
| 箱根レベル3(2015/6/30) | +0.6% | −2.5% | −2.9% |
| 阿蘇山レベル3(2016/10/11) | +1.0% | −0.6% | +0.3% |
| 桜島レベル5(2022/7/25) | −0.8% | +2.2% | +1.9% |
(藤田観光=箱根小涌園などを運営する観光企業、小田急=箱根への鉄道・ロープウェイを持つ私鉄。箱根の影響を測る「ものさし」として掲載しています)
一目で分かるのは、市場全体(日経平均)は噴火にほぼ反応していないことです。戦後最悪の人的被害が出た御嶽山でも翌営業日は+0.5%、制度上最高のレベル5が初適用された桜島でも−0.8%。地震の記事では震災後に日経平均が数%〜十数%動いた記録を整理しましたが、噴火は様相がまったく違います。
② 動いたのは「観光地の名前を背負った銘柄」だけだった
例外は箱根です。レベル2に上がった連休明けの2015/5/7、藤田観光は−8.5%、小田急は−3.0%と、日経平均(−1.2%)を大きく超えて売られました。
なぜ箱根だけが動いたのか。当時の報道では、大涌谷の立ち入り規制・ロープウェイの運休・宿泊キャンセルなど、企業の収益への影響が具体的に見積もれる情報が出たためと整理されています。御嶽山の遭難は痛ましい災害でしたが上場企業の収益への経路が細く、阿蘇山や桜島はもともと活動的な火山として市場に織り込まれていた——「株価が反応するのは、被害の大きさではなく、上場企業の事業への影響が数字で見えたとき」。これは地震の記事で書いた「供給網の経路」と同じ論理です。
③ 影響は一日で終わらず、数か月続いた

2015年の箱根では、規制が長引くにつれて影響も長引きました。4月末を100とすると、7月上旬時点で日経平均が101前後だったのに対し、藤田観光は85前後、小田急は97前後。市場が横ばいの間、観光関連だけが売られ続けた形です。
なお、グラフの8月後半以降は3銘柄とも大きく下げていますが、これは噴火ではなく世界株安(チャイナショック)です。藤田観光の最安値(−24%)もこの時期に付けており、「噴火のチャート」を長く引くと別の物語が混ざる——地震の記事と同じ単一帰属の罠がここでも現れます。箱根の警戒レベルはその後段階的に引き下げられ、観光関連株も年末にかけて持ち直していきました。
④ 記録から言えること — 心得として
- 噴火は「市場全体のイベント」ではなかった: 4事例すべてで日経平均は±1.2%以内。災害の衝撃の大きさと市場の反応は別物です
- 反応したのは事業への影響が見積もれた銘柄だけ: 観光地の名前を背負う銘柄に、規制・キャンセルという具体的な情報が出たときに限られました
- 影響の長さは「規制の長さ」に連動した: 箱根では警戒レベルが上がっている数か月間、関連銘柄の出遅れが続きました
- 下落の理由を1つに決めつけない: 2015年夏の下げの主因は噴火ではなく世界株安でした。大きく動いた日ほど、材料は重なっています
出典・手法: 噴火の日時・警戒レベルは気象庁発表および内閣府防災の災害事例資料。株価・指数はYahoo Financeの調整後終値から当サイトが算出(2026-07-29作成)。当時の状況は日本経済新聞等の報道にもとづきます。統計用語は用語辞典へ。
※本記事は過去の市場の記録の整理(教育目的)であり、特定銘柄の売買推奨・噴火や株価の予測ではありません。掲載銘柄は影響を測る実測例として挙げているだけで、売買対象として示すものではありません。
シリーズ「急変の解剖」: ①熊本地震と株式市場 / ②為替介入の夜、株はどう動いたか / ④TOB釘付け現象の実測 / ⑤消費税が変わるとき、株価はどう動いてきたか


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