為替介入の夜、株式市場はどう動いたか — 2022・2024・2026年の実測記録

急変の解剖

2026年7月現在、円相場は1ドル=163円台で推移しており、報道では為替介入への警戒が繰り返し取り上げられています。そこで本記事では、「実際に介入があった日、株式市場はどう動いたのか」を過去の実測データで整理します。熊本地震と株式市場の記事に続く、「急変の解剖」シリーズの2本目です。

※本記事は教育・解説を目的としたものです。特定の売買を勧めたり、今後の介入の有無や為替・株価の先行きを予測・断定したりするものではありません。以下はすべて過去に実際に起きたことの記録です。

① 介入は、いつも「市場が閉まっている時間」に来た

財務省の公表と当時の報道によれば、円買い・ドル売り介入の実施タイミングはこうでした。

局面 実施日時 規模
2022年9月 9/22(木)17時過ぎ(東証の取引終了後) 2兆8,382億円(24年ぶりの円買い介入)
2022年10月 10/21(金)深夜+10/24(月) 5兆6,202億円+7,296億円
2024年4-5月 4/29(祝日)+5/2(未明 5兆9,185億円(1日として過去最大)+約3.9兆円
2026年4-5月 4/30(木)(欧米市場)ほか 4/28〜5/27で計11兆7,349億円(円安局面で過去最大)

取引時間内の東京市場を直撃した例は、この4局面ではほぼありません。株式市場の反応が見えるのは翌営業日——熊本地震の記事で書いた「市場は翌営業日に初めて反応する」と同じ構図が、為替介入でも繰り返されています。

円買い為替介入の前後のドル円相場

② 翌営業日の株式市場は、意外なほど静かだった

介入の翌営業日(介入がその日の取引前・取引時間外にあった日)の実測です(前日終値比、Yahoo Financeデータより当サイト算出):

反応日 日経平均 ドル円(終値ベース)
2022/9/26(月) −2.7% +0.9%(円安に戻す)
2022/10/24(月) +0.3% −1.6%
2024/4/30(火) +1.2% −1.2%
2024/5/2(木) −0.1% −1.3%
2026/5/1(金) +0.4% −2.0%

5回のうち4回は、日経平均は±1.2%以内の小動きでした。為替が1日で数円動く騒ぎでも、株式市場全体はそれほど動いていません。円相場は報道ベースでは瞬間的にもっと大きく動いており(2022/9/22は145円90銭前後から一時140円台前半へ、2024/4/29は160円台から154円台へ)、それでもこの静けさです。

唯一大きく下げた2022/9/26(−2.7%)には、介入と別の材料が重なっていました。前週末9/23に英国の大型減税案をきっかけに英ポンドと英国債が急落し、世界的な株安・金利上昇が起きていた週明けです(出典: 当時の日本経済新聞等の報道)。地震の記事でも書いたとおり、大きく動いた日の理由を1つに決めつけると読み間違えます

③ 個別株は「為替βの教科書」どおりには動かなかった

当サイトは小売6社マップなどで、銘柄ごとの為替β(円安の日にどれだけ上がりやすいかの実測値)を測ってきました。教科書どおりなら、円高に振れる介入の翌日は「輸出株が下がり、輸入・円高メリット株が上がる」はずです。実測はこうでした:

反応日 トヨタ(輸出) ニトリHD(円高メリット) 三越伊勢丹(インバウンド)
2022/9/26 −3.2% +0.3% −0.7%
2022/10/24 +0.5% −0.5% −3.6%
2024/4/30 +3.7% −2.6% −0.7%
2024/5/2 −0.7% +1.0% +1.8%
2026/5/1 −0.8% +3.0% +0.0%

教科書どおりに見えるのは2026/5/1(トヨタ↓・ニトリ↑)くらいで、2024/4/30は完全に真逆です(トヨタ+3.7%、ニトリ−2.6%)。この日は日経平均自体が+1.2%と反発した日で、個別株は為替よりもその日の相場全体の流れや個別材料に引っ張られました。

ここから言えるのは、為替βを否定することではなく、為替βは「3年半の日次データから出てくる平均的な傾向」であって、特定の1日を当てる装置ではないということです。長期の傾向と単日の値動きを混同するのは、当サイトが繰り返し書いているデータの罠の一種です。

④ 円相場そのものへの効果も「その日かぎり」が多かった

上のグラフを見ると、介入当日の円高が数日〜数週間で元に戻っていく局面が多いことが分かります。2022年10月だけは結果的に151円台が天井になりましたが、当時は米国の利上げ観測の後退(11月のCPIショック)が重なっており、介入単独の効果と言い切れないと当時から指摘されています。2024年・2026年の介入後も、円は数か月のうちに介入前の水準近くへ戻りました(2026年7月現在は163円台)。

「過去最大」を更新し続ける規模のお金が投じられても、翌営業日の株はほぼ動かず、為替の効果も持続が課題とされる——これが実測から見える為替介入の姿です。介入の有無やタイミングを個人が予測して売買することの難しさは、この記録が示すとおりです。

出典・手法: 介入の実施日・金額は財務省公表(外国為替平衡操作の実施状況)および日本経済新聞・Bloomberg等の報道。株価・為替はYahoo Financeの調整後終値から当サイトが算出(2026-07-29作成)。為替βの実測は銘柄カルテ各記事、統計用語は用語辞典へ。

※本記事は過去の市場の記録の整理(教育目的)であり、特定銘柄の売買推奨・為替や株価の予測ではありません。掲載銘柄は為替βの実測例として挙げているだけで、売買対象として示すものではありません。


シリーズ「急変の解剖」: ①熊本地震と株式市場 / ③噴火警戒レベルと株価 / ④TOB釘付け現象の実測 / ⑤消費税が変わるとき、株価はどう動いてきたか

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