小売6社を同じ物差しで測ったら — 「内需の安定株」の中身は、為替の向きで真っ二つだった

銘柄カルテ

※本記事は教育・解説を目的としたものです。特定の売買を勧めたり、将来の値動きを断定したりするものではありません。約3.5年(2023-01〜2026-07)の統計にもとづく特性記述です(数値基準日: 2026-07-10)。
📖 統計用語(β・説明力・純固有など)が分からなくなったら用語辞典へ。シリーズ全体の目次は銘柄カルテの歩き方へ。

自動車・半導体・銀行・商社・電機・通信・食品・医薬品・機械に続き、第10弾は小売6社。ユニクロのファーストリテイリング、イオン、セブン&アイ、ドン・キホーテのパン・パシフィック、ニトリ、三越伊勢丹——「内需の身近な会社」を、いつもの物差し「市場・為替 → 業種 → 純固有」で測ります。

6社の一覧表

市場β 為替β 業種β 説明力R² 純固有ドリフト 期間リターン 直近1年
ファーストリテイリング +0.86 +0.24 +0.33 45% +28% +219% +76%
三越伊勢丹HD +0.73 +0.61 +0.39 26% +26% +205% +83%
イオン +0.26 −0.16 +0.66 19% +22% +52% −6%
パンパシフィックHD +0.37 +0.21 +0.77 28% +22% +85% −12%
セブン&アイHD +0.31 +0.32 +0.49 18% −24% +13% −10%
ニトリHD +0.21 −0.89 +0.48 14% −36% −31% −11%

小売6社の純固有ドリフト

発見1:「為替の向き」が業種内で正反対 — ニトリの為替βはシリーズ初のマイナス

一番の驚きは為替βです。三越伊勢丹の+0.61(円安の日に上がる)から、ニトリの−0.89(円安の日に下がる)まで、同じ「小売」の中で符号が割れました。ニトリの−0.89は当シリーズが測った約30銘柄で初めての明確なマイナス為替βです。

理屈はそれぞれの商売と整合します。三越伊勢丹は円安がインバウンド消費の追い風。ニトリは商品の多くを海外生産・輸入しているため、円安はそのままコスト増です。「円安是正で上がる株・下がる株」が同じ業種に同居している——「小売株」とまとめて語ることに実測上ほぼ意味がありません

発見2:説明力R²は14〜45% — 食品と並ぶ「個社の物語」業種

R²は最小のニトリで14%、イオンで19%。食品編(22〜35%)と並ぶ低さで、値動きの大半が「その会社固有」です。日常に密着した内需企業ほど、日経平均や為替の波よりも、既存店売上・値上げの浸透・出店戦略といった自社の材料で動く——教科書的な「ディフェンシブ」の実測面です。

例外がファーストリテイリング(R²45%・市場β+0.86)。ただしこれは解釈に注意がいります。同社は日経平均への寄与度が最大級の銘柄なので、「日経に連動して動く」というより「この会社が動くと日経が動く」面が混ざります。回帰の数字は因果の向きを教えてくれない——相関と因果の回で扱う注意点の実例です。

発見3:期間リターンは+219%から−31%まで、業種内で最大級の格差

3年半のリターンはファーストリテイリング+219%・三越伊勢丹+205%に対し、ニトリは−31%。同じ業種で250%ポイントの差は、これまで測った10業種で最大級です。純固有ドリフトも+28%から−36%までばらけ、純固有どうしのペア相関は平均−0.11とほぼ無相関——業種共通の物語(インバウンド・消費動向)はあっても、勝ち負けは完全に個社ごとでした。

なお直近1年で見ると、プラスはファーストリテイリング(+76%)と三越伊勢丹(+83%)の2社だけで、残り4社はマイナス。二極化は現在進行形です。

発見4:それでも「業種のつながり」は残る

業種βは+0.33〜+0.77と全社プラスで、消費増税・インバウンド・天候といった共通材料では一緒に動く面も確かにあります。イオン(業種β+0.66)とパン・パシフィック(+0.77)は「業種の波には乗るが市場の波にはあまり乗らない」タイプで、日経が急落する日でも比較的独立に動く——銀行編の「3行ほぼ一体」とは対照的な、ゆるいつながりです。

この回の持ち帰り

  1. 「小売」は一枚岩ではない。為替βの符号が業種内で正反対(インバウンド型 vs 輸入型)
  2. 説明力R²は14〜45%と低く、個社の物語が主役の業種
  3. 業種内リターン格差は+219%〜−31%と最大級。どの1社かで結果がまるで違う
  4. 大型指数銘柄(ファーストリテイリング)のβは「指数を動かす側」の顔が混ざる点に注意

出典・手法: 株価データはYahoo Finance。手法は当サイト「銘柄カルテ」共通の回帰による因子分解です(本業種は純資産系指標を未収録のためPBR比較は今後の深掘りで扱います)。

※本記事は値動きの『クセ』の特性記述(教育目的)であり、特定銘柄の売買推奨・将来予測ではありません。

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