「まとまったお金があるとき、一度に入れるのと毎月に分けるのはどちらが良いのか」——投資の入り口でよく出てくる問いです。答えは相場次第なので断言できませんが、過去の日本株ではどうだったかなら数えられます。
日経平均の月末終値を使い、同じ総額・同じ期間で入れ方だけを変えた比較を、開始月を1か月ずつずらして全部やりました。1990年1月から始めて20年間の組み合わせは201通りあります。
※本記事は教育・解説を目的としたものです。特定の投資方法・商品を推奨するものではなく、将来の成績を予測するものでもありません。以下は過去の指数データによる試算です。
① 試した内容
- 積立: 毎月末に3万円ずつ、20年間(240回)。総額720万円
- 一括: 同じ720万円を、初月の月末にまとめて
- どちらも日経平均そのものを金額指定で買える前提(投信の金額指定買付に近い形)
- 手数料・信託報酬・税金は含めていません。配当も含まれません(日経平均は配当抜きの価格指数です)
条件が同じなので、差はすべて「いつ、いくら入れたか」から出てきます。
② 201通りの結果
| 20年後(201通り) | 毎月積立 | 初月に一括 |
|---|---|---|
| 平均の損益 | +66.7% | +66.0% |
| 相手に勝った割合 | 68.7% | 31.3% |
| マイナスで終わった割合 | 19.9% | 39.3% |
| いちばん悪かった結末 | −38.0% | −71.6% |
| いちばん良かった結末 | +319.2% | +353.3% |
平均はほぼ同じ(66.7%と66.0%)。ところが分布はまるで違います。積立は勝率が高く、最悪の結末が浅い。一括は最良が大きい代わりに、マイナスで終わる確率が2倍近くありました。
これは「どちらが優れているか」ではなく、同じ平均でも散らばり方が違うという話です。一括は最初の1点の値段にすべてを賭けるため、その1点が高値だったときの傷が深くなります。
③ 開始年で結論がひっくり返る

開始年ごとに並べると、勝ち負けは相場の形そのものです。
| 開始年 | 積立 | 一括 | 差 |
|---|---|---|---|
| 1990年 | −31.1% | −64.8% | 積立 +33.8pt |
| 1995年 | +50.4% | +11.3% | 積立 +39.1pt |
| 2000年 | +72.4% | +35.1% | 積立 +37.3pt |
| 2003年 | +108.6% | +227.7% | 一括 +119.1pt |
| 2006年 | +262.5% | +274.2% | 一括 +11.6pt |
下げてから戻る相場(1990年代)では積立が優位、最初から上がり続ける相場(2003年以降)では一括が優位。理由は単純で、積立は価格が安い月に多くの口数を買い、高い月には少ししか買わないからです。上がり続ける相場では「安い月」が最初にしか存在しないので、待つほど不利になります。
なお、いちばん悪かったのは1990年9月に始めて2010年8月に終える20年で、積立でも−38.0%でした(一括は−57.9%)。積立は損失を浅くしましたが、消しはしませんでした。
④ 積立が必ず勝つ、たった一つのこと
201通りすべてで成立していた事実が1つだけあります。平均取得単価は、その期間の平均株価より必ず安い(201通り中201通り)。
金額を固定して買うと、価格が安い月には多くの口数、高い月には少ない口数を買うことになります。その結果、平均取得単価は単純な平均株価を必ず下回ります。これは相場の当たり外れではなく割り算の性質なので、どんな値動きでも成立します。
ただし注意が必要です。これは「平均株価より安く買える」であって、「儲かる」ではありません。1990年9月開始の例でも平均取得単価は期間平均を下回っていましたが、20年後の結果は−38%でした。安く買えても、最後の値段がそれより低ければマイナスです。
⑤ 期間を10年に縮めると
同じ計算を10年(321通り)でやると、様子が変わります。
| 10年後(321通り) | 毎月積立 | 初月に一括 |
|---|---|---|
| 平均の損益 | +24.3% | +40.2% |
| 相手に勝った割合 | 55.8% | 44.2% |
| マイナスで終わった割合 | 37.1% | 47.7% |
| いちばん悪かった結末 | −48.6% | −61.9% |
平均では一括が大きく上回るのに、勝った回数では積立が上——という逆転が起きています。一括は勝つときに大きく勝つぶん平均を押し上げますが、勝つ回数そのものは少ない、という形です。平均だけ、勝率だけを見ると反対の結論になる好例です。
⑥ この試算が答えていないこと
- 配当が入っていません。日経平均は配当抜きの指数です。実際の投信は分配を再投資するぶん、両方の成績が上がります
- コストと税金が入っていません。信託報酬は保有期間が長いほど効きます(NISAの非課税の記事で実測しています)
- そもそも同じ選択肢を持っている人は限られます。「720万円を今すぐ一括で」は、その720万円が手元にある人だけの選択です。毎月の収入から積み立てる人にとって、一括という選択肢は最初から存在しません
- 日本株の1990年以降という特殊な期間の話です。長期の下落局面を含む点で、他国の指数とは形が違います(高値からの回復日数の記事)
⑦ 記録から言えること
- 20年・201通りの平均はほぼ互角(+66.7%と+66.0%)。ただし中身の散らばり方が違います
- 積立は勝率69%・最悪−38%、一括は最良+353%・マイナス終了39%。「どちらが良いか」は何を重視するかで変わります
- 開始年で結論がひっくり返る。1990年開始なら積立が33.8pt有利、2003年開始なら一括が119.1pt有利でした
- 平均取得単価が平均株価を下回るのは常に成立。ただしそれは「安く買える」であって「利益が出る」ではありません
- 期間を10年に縮めると平均と勝率が逆の答えを出します。1つの指標だけで結論を作らないことです
出典・手法: 日経平均株価(^N225)の日次終値はYahoo Financeより取得し、月末終値に集約して当サイトが試算(2026-08-16実行、対象は1990年1月〜2026年8月の月末終値)。積立は毎月末に3万円、一括は同額を初月末に投じたものとして口数を計算しています。手数料・信託報酬・税金・配当は含みません。集計スクリプトはリポジトリの scripts/dca_vs_lumpsum.py として公開しています。
※本記事は過去データの試算(教育目的)であり、特定の投資方法・金融商品の推奨や将来の成績の予測ではありません。過去の傾向が今後も続くことを示すものではありません。


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