※本記事は教育・解説を目的としたものです。特定の売買を勧めたり、将来の値動きを断定したりするものではありません。当サイトの銘柄分析(銘柄カルテ)の裏側で実際に起きた失敗と修正の記録です。
株価分析のシリーズ「銘柄カルテ」を作る過程で、分析者(と当サイトのAI分析パイプライン)が実際に踏んだ落とし穴を共有します。データ分析を学ぶ人には、どの教科書よりも実感のある教材だと思うからです。
発端:足し算が合わない
トヨタの株価変化を「市場・為替・業種・固有」に分解していたとき、検算で恒等式が4.7ポイント合わないことに気づきました。分解の各項を足すと、実際の株価変化に一致するはずなのに、です。
調べると、結合後のデータから営業日が104日も消えていました。消えた日を曜日別に数えて、鳥肌が立ちました。全部、金曜日だったのです。
原因:為替データの「日付」は東京の暦とずれていた
データ源(Yahoo Finance)のドル円の日足は、バーの開始時刻(前日21〜22時UTC)でラベルされていました。UTCの日付で処理すると、東京の暦と1日ずれる——金曜のバーが木曜として記録され、データ上「金曜が存在せず、日曜が存在する」状態になっていたのです。
つまりそれまでの分析はすべて、株価と“前日の為替の動き”を突き合わせていたことになります。
検証のため、為替のラベルを東京の暦に直して相関を取り直すと:
- 修正前:株と為替の同日相関 +0.08(前日・翌日にも相関が漏れる)
- 修正後:同日相関 +0.24(漏れが消え、きれいに同日に揃う)
修正したら、結論が3つ覆った
データを直して全分析をやり直した結果は、正直に言って痛いものでした。
- 「円安局面では為替感応度が3倍強くなる」→ 撤回。局面別の感応度差は日付ずれの産物で、修正後は統計的に有意ではなくなった
- 「適応型の近似モデルは最悪」→ 実は最良。モデル比較の順位が逆転した
- 為替の重要性を半分に過小評価(感応度0.37→0.71)
一方で、主要な結論(業種因子が説明力の最大のカギ、累積の大半は未命名の再評価)は修正後も変わりませんでした。結論が生き残るかどうかを確かめること自体に価値があります。
持ち帰り:データ分析の「転ばぬ先の杖」
- 結合後の件数と曜日分布を見る。「金曜がない」ような偏りは一目で分かる——見ようとすれば
- 恒等式で検算する。分解の合計が元の値に一致するか。合わない4.7ポイントを「誤差」と流さない
- タイムゾーンを疑う。日をまたぐ市場(為替・海外指数)のデータは、どの暦でラベルされているかを必ず確認する
- 結論が覆ったら、覆ったと言う。過去の分析記事は修正の経緯ごと残す方が、読者にも自分にも誠実
「分析が高度かどうか」より先に、データが正しいかどうか。地味ですが、この順番だけは間違えないようにしたい——高い授業料で学んだ教訓でした。
出典・手法: 株価・為替データはYahoo Finance、純資産・決算は各社IR/決算短信・IRBANK。手法は当サイト「銘柄カルテ」共通の回帰による因子分解です。
※本記事は教育目的の解説であり、特定銘柄の売買推奨・将来予測ではありません。


コメント