※本記事は教育・解説を目的としたものです。特定の売買を勧めたり、将来の値動きを断定したりするものではありません。データの読み方を学ぶ「データの罠」シリーズです。
1,024人が同時にコイン投げを始めると、確率的に約1人は10回連続で表を出します。その1人が「私はコイン投げの達人」と名乗ったら、あなたは信じるでしょうか——信じませんよね。ところが株式市場では、同じ構図が毎日、もっと分かりにくい形で起きています。
「よく当たる予想」が生まれる仕組み
SNSや動画には無数の相場予想があります。強気も弱気も、あらゆる時期・銘柄について誰かが何かを言っている。すると事後的には必ず「当て続けた誰か」が存在します。その人が実力者なのか、1,024人の中の1人なのかは、当たった実績だけからは区別できません。
見るべきは「当たった回数」ではなく、全予想を並べたときの成績と、なぜ当たるのかの説明が検証に耐えるかです。
分析者自身も同じ罠にはまる:多重検定
これは他人事ではありません。データ分析では「たくさん試せば、何かは偶然うまくいく」という罠(多重検定の問題)があります。100個の投資ルールを過去データで試せば、実力ゼロでも数個は「勝率9割」に見えるものが出てきます。
当サイトの銘柄分析でも、値動きを説明する要因の候補(金利・原油・海外指数など)を多数試しています。だからこそ、モデルが見ていない直近90日だけで最終判定する(ホールドアウト検証)・試した回数ごと記録に残すという規律を置いています。「見つかった」ではなく「見ていないデータでも生き残った」ものだけを採用する——偶然への防波堤です(詳しくは回帰分析の回)。
平均への回帰:「神様」が普通に戻るだけ
もう一つの「たまたま」が平均への回帰です。極端に良い成績は、実力+幸運の合計であることが多く、幸運の分は続きません。「昨年の成績1位のファンドが今年は平凡」「決算が絶好調だった翌年に減速」はスキャンダルではなく、確率的にごく自然な現象です。逆に、極端な不振の後に持ち直すのも同じ理屈で、「改善策が効いた」と早合点する前に一呼吸置く価値があります。
自衛のチェックリスト
- 分母を聞く:「10連勝」の裏で何人が挑戦していたか
- 後出しを疑う:予想は「言った時点の記録」があるか。事後の切り抜きではないか
- 試行回数を疑う:その必勝法は、いくつの候補を試した中の1つか
- 極端な成績の直後は平均への回帰を想定する
持ち帰り
市場は参加者が多く試行回数が膨大なので、「偶然の傑作」が毎日どこかで生まれます。実力と偶然を分けるのは、当たった派手さではなく、検証の地味な手続き。これは他人の情報を見るときも、自分の成功体験を振り返るときも、同じです。
出典・手法: 株価データはYahoo Finance。手法は当サイト「銘柄カルテ」共通の回帰による因子分解です。
※本記事は教育目的の解説であり、特定銘柄の売買推奨・将来予測ではありません。


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