日経平均の上昇は、ほとんど「夜のあいだ」に起きていた — 20年分を分解する

相場解説

東京市場が開いているのは平日の9:00〜15:30です。1日の値動きは、この取引時間中に動いた分と、市場が閉じている間に開いた窓の2つに分けられます。日経平均の20年分をこの2つに割ってみたところ、想像よりずっと極端な結果が出ました。

※本記事は教育・解説を目的としたものです。特定の売買手法や取引タイミングを勧めるものではなく、将来の値動きを予測するものでもありません。以下は過去の記録の分解です。

① 分け方 — 1日を2つに割る

日足のデータだけで、次の2つが計算できます。

  • オーバーナイト = 前日の終値 → 当日の始値。市場が閉じている間に起きた分(いわゆる「窓」)
  • 日中 = 当日の始値 → 当日の終値。取引時間中に動いた分

この2つを掛け合わせると、実際の日経平均の動きに戻ります。2006〜2025年の4,893営業日を、それぞれ別々に積み上げました。

② 結果 — 上昇は全部「夜」にあった

日経平均: オーバーナイトと日中に分けた累積

20年の累積(2006〜2025) 結果
実際の日経平均 +212%
オーバーナイトだけを積む +670%
日中だけを積む −59%

取引時間中の動きだけを積み上げると、20年で4割以下に減ります。一方、寄り付きの窓だけを拾い続けると7.7倍。実際の指数(+212%)は、この2つの合成です。

年ごとに見ても傾向は安定していて、20年のうちオーバーナイトがプラスだったのは15年、日中がプラスだったのは8年でした。

オーバーナイト 日中 合計
2013 +40.7% +11.4% +56.7%
2020 +9.3% +6.1% +16.0%
2021 +17.7% −10.9% +4.9%
2023 +15.4% +11.2% +28.2%
2024 +15.3% +3.4% +19.2%
2025 +33.6% −5.5% +26.2%

2021年が分かりやすい例です。指数は+4.9%とわずかに上げましたが、その中身は夜に+17.7%、昼に−10.9%。1年を通して「朝は高く始まり、日中に売られる」が繰り返された年でした。

③ なぜこうなるのか

理由ははっきりしています。日本の取引時間中、世界の主要市場は閉じているからです。

  • 米国市場が開くのは日本時間の22:30(夏時間)前後。米国の経済指標・決算・政策発表の多くは日本の夜に出ます
  • 為替も、東京時間より欧米時間のほうが動きます
  • そのため、海外で起きたことは翌朝の寄り付きの値段に一気に反映されます

日中の時間帯は、その材料が出尽くした後の調整に近い時間になりやすい——これが「夜に上がって昼に戻す」形が繰り返される背景です。実際、日経平均が2%以上動いた616日のうち229日(37%)は、日中よりも窓のほうが大きく動いていました

数字の性格も違います。オーバーナイトの標準偏差は0.78%、日中は1.07%。動く幅は日中のほうが大きいのに、積み上がる方向はオーバーナイトのほうが上向き、という非対称がありました。

④ この結果を、そのまま取引に読み替えられない理由

「では引けで買って寄りで売ればいい」——数字だけを見るとそう見えます。ただ、この分解は机上のものです。

  1. 指数そのものは売買できません。ETFや先物で近い形は作れますが、価格も取引時間も指数とは別物です
  2. 毎日2回の売買にはコストがかかります。4,893営業日ぶんの手数料とスプレッドは、この差を簡単に食いつぶします
  3. 始値は「その値段で買える保証」ではありません。寄り付きは板が薄く、窓が大きい日ほど想定と違う値段で約定します
  4. 税金も無視しています。売買のたびに利益が確定します

この分解が教えてくれるのは有利な売買手法ではなく、日本株を持つということが何を引き受けることなのかです。日本株を保有して眠るとき、その一晩の間に動いているのは海外市場と為替であり、翌朝の窓としてそれを受け取ります。お盆の記事で「海外市場はお盆で休まない」と書いたのと同じ構図が、毎日繰り返されているわけです。

⑤ 記録から言えること

  1. 20年の上昇は、ほぼ夜のあいだに起きていた: オーバーナイトだけで+670%、日中だけなら−59%、実際は+212%
  2. 年単位でも安定した傾向: オーバーナイトがプラスの年が15年、日中がプラスの年は8年
  3. 動く幅は日中のほうが大きい: 標準偏差は日中1.07%、オーバーナイト0.78%。「大きく動く」と「積み上がる」は別の話です
  4. 大きく動いた日ほど窓が効く: 2%以上動いた616日のうち37%は日中より窓のほうが大きい動きでした
  5. 売買手法には直結しません: コスト・約定・税金を無視した分解です。読み取れるのは「保有している間、何のリスクを取っているか」です

出典・手法: 日経平均株価(^N225)の日次4本値はYahoo Financeより取得し、当サイトが集計(2026-08-11実行、対象は2006〜2025年の4,893営業日)。オーバーナイト=前日終値→当日始値、日中=当日始値→当日終値として、それぞれを複利で累積しています。指数の始値は構成銘柄の寄り付きが揃った時点の値であり、全銘柄が同時に寄り付くわけではない点にご留意ください。集計スクリプトはリポジトリの scripts/overnight_intraday.py として公開しています。

※本記事は過去データの分解(教育目的)であり、特定の売買手法・銘柄の推奨や将来の値動きの予測ではありません。過去の傾向が今後も続くことを示すものではありません。


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