お盆相場は本当に閑散なのか — 日経平均20年分で「夏枯れ」を確かめる

相場解説

「お盆は夏枯れで閑散」「参加者が少ないから動かない」——毎年この時期に必ず聞く言い回しです。ただ、それを数字で確かめた話はあまり見かけません。そこで日経平均の過去20年(2006〜2025)を集計して、通説のどこが当たっていてどこが外れているのかを整理しました。

なお2026年のお盆週は、8/11(火)が山の日で休場、立会は8/12(水)・13(木)・14(金)の3日です。

※本記事は教育・解説を目的としたものです。特定の売買を勧めたり、この先の相場を予測・断定したりするものではありません。以下はすべて過去に実際に起きたことの記録であり、今年も同じことが起きるという意味ではありません。

① 出来高は確かに減る。ただし「1割」

まず素直なところから。お盆期間(8/12〜16)の日経平均の売買高は、その年の平均の88.7%でした。20年平均です。減ってはいます。ただ、閑散という言葉から受ける印象ほど劇的ではありません。1割強です。

月別に見ると、夏枯れはお盆だけの話でもありませんでした。各年の平均出来高を100として月ごとに並べると:

日経平均の月別 出来高と平均的な値動きの大きさ

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
出来高(年平均=100) 104 112 112 100 107 97 91 91 96 96 102 93

最も薄いのは7月(91.1)と8月(91.2)がほぼ同点。つまり夏枯れは7月から始まっていて、8月に入って急に細るわけではありません。最も厚いのは2月と3月(112)で、決算発表と期末が重なる時期です。

② 出来高は減るのに、値動きの大きさは変わらない

ここからが本題です。「参加者が少ない→だから動かない」が通説の後半ですが、実測はこうでした。

お盆(8/12-16) その年の平均
平均 |日次変化率|(終値ベース) 1.02% 1.02%
平均 日中値幅(高値−安値) 1.13% 1.26%

終値ベースの1日の動きの大きさは、小数点2桁まで年間平均と同じでした。日中の値幅こそやや小さいものの、1日を終えて残る変化量は縮んでいません。

これは考えてみれば当然の帰結でもあります。値段は「売買の量」ではなく「買い手と売り手の力の差」で動くからです。出来高が1割少ないのに同じだけ動いたということは、より少ない売買代金で同じ値幅が動いたということ。上のグラフで、棒(出来高)が7・8月にへこんでいるのに線(値動きの大きさ)がそこで落ち込んでいないのは、そういう意味です。

「動かない」ではなく「少ない注文で動く」——これがデータの言っていることです。

③ お盆のど真ん中でも、市場は普通に大きく動いてきた

もう少し極端な日を見てみます。2006〜2025年の8月に、日経平均が終値ベースで2%以上動いた日は55日ありました。そのうち9日はお盆期間(8/12〜16)の中です。

日付 変化率
2024/8/16 +3.64%
2024/8/13 +3.45%
2022/8/12 +2.62%
2013/8/13 +2.57%
2018/8/14 +2.28%
2025/8/12 +2.15%
2007/8/15 −2.19%
2013/8/15 −2.12%
2008/8/13 −2.11%

2024年の2日は、8/5の急落(−12.4%)と8/6の急反発(+10.2%)——いわゆる「令和のブラックマンデー」——の後始末がお盆にまたがった記録です。2007年8月はサブプライム問題、2008年8月はリーマン・ショック直前の不安定な地合いでした。

つまり、世界のどこかで材料が出れば、日本のお盆は関係なく反応してきたわけです。海外市場はお盆で休みませんし、為替も動き続けます。

④ 一年で一番閑散な日は、実はお盆ではなかった

ついでに調べて意外だったのがこれです。各年で最も出来高が少なかった営業日を20年分並べると、12月が12回と圧倒的でした。8月は3回(2012年・2013年・2018年)、9月と4月が2回ずつ、7月が1回です。

12月に集中するのは大納会前後、つまりクリスマスから年末にかけての時期です。市場が本当に止まるのは、お盆よりも年末でした。

⑤ 「お盆は上がる/下がる」は成立するのか

最後に、季節アノマリーとしての成否です。お盆期間の合計騰落を年ごとに見ると、プラスが11年・マイナスが9年、平均+0.57%でした。

コインを20回投げて11回表が出たのと区別がつきません。方向についての規則性は、このデータからは読み取れませんでした。「お盆だから上がる」も「お盆だから下がる」も、根拠として使える水準ではないということです。

⑥ 記録から言えること — 薄商いの心得として

  1. 夏枯れは実在するが1割程度、しかも7月から: お盆期間の出来高は年平均の88.7%。7月と8月がほぼ同点で年間最少です
  2. 「閑散=動かない」ではない: 1日の変化率の平均はお盆1.02%、年間1.02%で同じ。少ない売買で同じだけ動いています
  3. 薄い板では、同じ注文が値段を動かしやすい: 板(注文の並び)が薄いほど、同じ株数の成行注文でも想定より不利な値段まで食い込んで約定しやすくなります。日経平均でこれだけの差が出るということは、売買がもっと細い個別銘柄ではさらに顕著に現れます
  4. お盆でも大きく動いた日はある: 8月に2%以上動いた55日のうち9日がお盆期間中。海外市場も為替も休んでいません
  5. 方向のアノマリーは見つからなかった: 11勝9敗、平均+0.57%。上下どちらの規則性も確認できませんでした
  6. 本当に閑散なのは年末: 年間最少出来高日は20年中12回が12月でした

「お盆だから安心」でも「お盆だから危険」でもなく、参加者が減った市場では同じニュースが普段より大きく値段を動かしうる——データから読み取れるのはこの一点です。

出典・手法: 日経平均株価(^N225)の日次データはYahoo Financeより取得し、当サイトが集計(2026-08-11実行、集計期間2006〜2025年の20年間)。出来高指数は各年の平均出来高を100として年ごとに正規化した上で20年平均。「お盆期間」は8/12〜16のうち立会があった日と定義しています(年により3〜5日)。集計スクリプトはリポジトリの scripts/seasonality_obon.py として公開しています。取引所の休業日は日本取引所グループの公表カレンダーによります。

※本記事は過去の市場データの整理(教育目的)であり、特定銘柄の売買推奨や将来の値動きの予測ではありません。過去の傾向が今後も続くことを示すものではありません。


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